2012年12月6日木曜日

Dishonored

周囲から尊敬され、充実した人生を過ごしてきた男が突然あらぬ汚名を着せられ、皆から忌み嫌われ、蔑ろに扱われるという屈辱的な一生を送ることになる―
転落人生。没落人生。程度の差はあれど、現実世界でもよく聞く話ではある。冤罪により殺人犯扱いされてしまい、氏名経歴など事細かに世に報じられ、懲役刑によって長い年月を奪われたり、収監されなくとも二度と元通りになることはない日常生活の辛さから自ら命を断つ人も少なくは無い。

そのような境遇に置かれた人達はその後何を考え、何を目指して生きようとするのか。いつか這い上がって元の生活を取り戻すことを望むのか、絶望して今置かれている状況をただただ受け入れるだけになってしまうのか。あるいは全てを恨み、復讐だけを考えて生きていくのか。
暗殺者となったコルヴォ・アッターノ
Arkane Studiosが手がけるステルスアクション、Dishonored。本作は女王護衛官であった主人公コルヴォ・アッターノが、謎の暗殺者によって女王が殺害される現場に居合わせたことから女王暗殺の罪を着せられ、投獄されてしまう場面で幕を開ける。このゲームの開発者にはかの「Deus Ex」に携わったハーヴェイ・スミスや「Half-life 2」のデザイナー、ヴィクター・アントノフらが名を連ねており、これらのゲームからの影響を感じる場面もいくつかあった。
舞台は女王ジェサミン・カルドウィンが統治する「諸島帝国」帝都ダンウォール。近世英国をベースとしつつ、ファンタジーやスチームパンク的要素を取り入れたような世界観である。科学技術が発展している一方、ネズミ等を媒介とした疫病が蔓延し、狂暴化した感染者は人々に襲いかかる。治療薬は高価で一般市民には広く行き渡らないという状況下にあり、民を救うことを第一に考える女王と、一連の問題は女王の責任と考える摂政伯爵バイラム・ハローズは対立していた。
王政支持者のハブロック
投獄されたコルヴォは、女王亡き後独裁政治を行う摂政伯爵に対抗し、暗殺の際に誘拐された王女の娘、エミリー・カルドウィンを王位に就かせ王政復古を目指す王政支持者達の協力によって牢屋から脱出し、エミリーの救出を目的としてゲームを進めていくことになる。
人智を超えた存在であるアウトサイダーがコルヴォに様々な能力を授ける
一人称視点の作品であり、ピストルやクロスボウなどといったスタンダードな武器だけではなく、マップ各地に点在する「ルーン」や「ボーンチャーム」によって得られる特殊能力を自由に駆使して、ミッションのクリアを目指すのだが、ターゲットとなる人物を暗殺するかまたは非致死で無力化するかはプレイヤーの手に委ねられている。同様に道中の敵を皆殺しにして進むか、見つからずに潜入してターゲットのみを始末するのも自由である。
そう聞くとやはり「Deus Ex」を連想してしまうのだが、既視感はあっても面白いものは面白い、というのが個人的に至った結論である。ストーリーを進めていく上で理不尽さを覚える箇所は無いし、一見突破不可能な場面に遭遇しても別のルートが用意されていたりと、ステルスアクションの基本をきっちり押さえている印象を受けた。
自分で召喚したネズミに罠を仕掛けることも可能
何よりも短距離を瞬間移動する「ブリンク」が消費マナの少なさも相まって非常に爽快感溢れる能力となっており、ただのステルスアクションとは一味違った操作感を提供している。「ブリンク」以外にも時を止める能力「ベンドタイム」、動物・人間に憑依して操る「ポゼッション」など魅力的な能力が存在し、時を止めて一瞬で複数の敵を射殺したり、敵兵に憑依して高所から落下させて倒すなど、武器や能力の組み合わせ方次第で幾通りものプレイスタイルを作り上げる、特殊能力自体の演出の格好良さもあり、容易に自分のプレイに陶酔することが出来るだろう。
マップ上で発見できる設計図を持ち帰ることで、各種装備のアップグレードも購入出来る。非殺にこだわるなら武器を強化する必要はほぼ無いし、特殊能力が便利過ぎるためアップグレードしなくても特に困ることはないのだがどうせ金は余るので暇があれば購入しておくと思わぬところで助けられる…かもしれない。
ミッションクリア後にスタッツが表示される
各ミッションで敵を多く殺害したり多数の戦闘を行ったりすると「カオス」が上昇していき、カオスの高低でイベントの進行が変化する場合もある。同様にエンディングもカオス値に大きく影響を受け、全部で三種類のエンディングが存在する。
疫病治療薬を開発した天才、アントン・ソコロフ
ストーリーは予想だにしなかった展開というものは少なく、そこまで深い訳でもないのだが、プレイヤーをゲーム内の世界に引き込むには十分なものであったと思う。キャラクターについては、暗殺対象とされる人物が完全な悪人であると言い切れない場合が多く、そこが一層プレイヤーの選択を面白くしていると感じた。ダンウォールで一、二を争う天才ピエロ・ジョプリンや同じく頭脳明晰で様々な分野に優れる宮廷医師アントン・ソコロフなども単にお固い人物ではなく時としてユーモラスであり、緊張感溢れる隠密任務の合間に一時の安心を与えてくれる。
一目見てBioshockを想起した
今年のGame of the Yearにもノミネートされている本作だが、残念ながらPC版は現段階では公式日本語化はされておらず、有志による日本語訳もフォントの問題から難航しているようである。しかし細かい内容が分からずとも、このゲームのを体験する価値は十分にあると感じさせる作品だった。

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